テレビウォッチャー

2014年8月22日金曜日

第14回:視聴率も「量」からへ「質」

はじまりは「猫視聴」
  第二次オイルショック(1978年)を機に、景気は一時落ち込んだものの、80年代の半ばからは円高・株高・債券高のトリプルメリットにより、経済は活況を取り戻した。しかしテレビを取り巻く環境はテレビ・ゲームの普及やホームビデオの定着など、多メディア化が進み、これに呼応するかのように、視聴率にも「質」が求められるようになっていった。
 引き金となったのは「猫視聴」である。誰もいない居間にはテレビが付けっぱなしになっていて、その前の座布団の上にはネコが気持ちよさそうにうたた寝をしている。こんな「一コマ漫画」により、“視聴率は、誰が見ているのか判らない”という批判が、業界を席巻したのであった。
 業界も日本民間放送連盟研究所(民放研)が中心となって、「番組の視聴充足度調査」を実施。番組の視聴者への視聴満足度を測定したのを皮切りに、NHK放送文化研究所が見た人の番組に対する評価を調べた「よかった率」。さらにはビデオリサーチ社の「TVQ」など、番組の見ての感想や評価を測定する調査が行われるようになっていった。

しょせんはエキスキューズ
 とは言え、それらのデータの使われ方は、「低視聴率番組のいいわけ」ともとれるものでしかなく、“確かにこの番組、視聴率は低いかも知れませんが、見た人の評価はこんなに高いですよ”とか、“こんな年齢層によく見られ、御社製品のターゲットをカバーしていますよ”など、しょせんは「エキスキューズ」として利用されることが多かった。
 また民放研が5年にわたって継続的に調査した「番組充足度調査」でさえ測定データが使う側の意に沿わぬことが多々あり、営業現場は、“折角売り込んだのに、このデータのお陰で交渉が「破談」になった。ぶち壊しだ!”などと、調査当局と営業とではデータの利用が一枚岩にはならないことも数多く見られたのである。

当時のリサーチャーの考え方
 ここで当時の調査部門の責任者たちの視聴率に対する考え方を、提言を含めてまとめておこう。
・「(視聴率は)一年を通じ、全番組を調査しているので、誤差を考慮して正しく読み取ればデータとしては十分使える。しかし一歩踏み込んでさらに細かい分析をしようとした場合、やはりサンプル数が少ない」(日本テレビ 岸田 功)
・「絶対に正しい視聴率は果たして必要だろうか。推測を許す余地があるくらいの方が  よいのではないか。視聴率が完璧な数字となると、現在でも勝手に一人歩きしている視聴率が絶対的権威を持ってしまう。その結果、何がなんでも視聴率となり、視聴率崇拝の傾向が強まるのではないか」(TBS 上村 忠)
・視聴率はいわば量を測る間口、質を測る尺度も必要ではないか」(民放研 野崎 茂)そうしたリサーチの専門家たちの考えを知ってか知らずか、とんでもない発言をした「御仁」がいた。次回はその男の起こした「舌禍事件」について話をしよう。 (つづく)

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