テレビウォッチャー

2014年12月2日火曜日

第18回:視聴「質」調査の導入をめぐって②


前回までのあらすじ:1962年に始まった機械式の視聴率調査であるが、そのデータについては、さまざまな批判が展開された。なかでも代表的な批判は、“こんなに少ない数で、データは正確なのか?”という「正確性」に関する批判と“猫が見ていても視聴率か?”という視聴の質をめぐる「信頼性」についてであった。
 業界では広告主が中心に視聴率という「量」の尺度のほかに、誰が見ているのかを測る視聴者の「質」という尺度があってもいいのではないかという議論が起こり、当時(1987年)、米国で開始されたばかりの「ピープルメータ調査」のわが国導入の可能性が議論され、活字メディアは“先進6ヶ国でピープルメータ調査を導入していないのは日本だけだ”と煽り立てた。
 こうした批判に、いち早く応じたのが、日本ニールセン社であった。テレビ調査の売り上げで、ビデオリサーチ社に大きく後れを取っていたニールセン社にとって、ピープルメータ調査の早期導入は願ってもない「神風」だったのかも知れない。


“それならわが社が、とニールセン”
  日本広告主協会(主協:現日本アドバタイザーズ協会)の強力なバック・アップが得られるとの確信から、日本ニールセン社は、この導入に積極的であった。いち早く米国での導入の一部始終を発表し、“セット・メータによる世帯視聴の調査はビデオリサーチだが、ピープルメータによる個人視聴の調査はわが社に!”とばかり、積極的に導入を推進した。一方の民放連(日本民間放送連盟)が“現行のピープルメータ調査では、“測定数値が低くなる”、“ボタン操作が正しく行われてないのではないか?”など、問題が多々見受けられると導入に異論を唱えると、ニールセンは“しからば、現在、米国で鋭意研究開発中の完全自動化による個人視聴の測定メータ「パッシブ・メータ」のデモンストレーションをさせて欲しい”というように、機械式個人視聴率調査導入に向けた「陣取り合戦」は、ニールセン社主導のままに展開されていった。

慎重だったビデオリサーチ
 対するビデオリサーチの対応は、どうだったろう? 当時、経営計画室・室長であった筆者は、この調査の導入については、1985年、英国の視聴率調査会社・AGB社が米国のボストンでこの調査の実験を開始した当初から強い関心を示し、三大ネットワークCBSの調査責任者D.ポルトラック氏を始め、ABCR.モンテサーノ氏、NBCP.スケボーン氏、米国広告調査財団(ARF)のM.ネイプル会長やL.ストダードJr.氏、広告代理店S&S社の広報責任者B.フランク女史、視聴率調査会社ニールセンのJ.ディムリング社長及びニールセンの競合・アービトロン社のリサーチ・ディレクターのP.メグロッツ氏らを訪問し、情報の収集に努めた。
 筆者の得た情報をもとに、米国には、さらなる問題としてOOHOut Of Home Viewing:自宅外視聴)の測定やVCRの測定調査などがプライオリティとしてあるものの、この調査が近日中に広告取引のスタンダードとなるとの判断から、導入の準備は怠りなくしておくことが確認された。しかし、表面上ビデオリサーチの取ったスタンスは、あくまでも“主協、業協(日本広告業協会)、民放連による「三者合意」が先決”という慎重なものであった。

米国リサーチャーの協力
 一方、P.メグロッツ氏と彼の朋友で当時プエルトリコでピープルメータ調査を導入した視聴率調査会社Mediafax社のB.マケーナ社長には、その後の情報を漏らさず教えて欲しいとの約束を取り付けた。今もって、彼らの献身的な協力なくして、ピープルメータ調査の導入に的確な判断は出来なかったろうと思う。
 翌1988年、ネイプル氏からCONTAMがニールセン・ピープルメータ調査を検証した「CONTAM Report(*)」が送られてくるとともに、ストダードJr氏とマケーナ氏からARF主催のシンポジューム「Worldwide Electronic Audience Measurement 」のカンファレンスが、ニューヨーク・ヒルトンホテルで開催されるので“是非、来るように”との案内が届いた。
(つづく)

(*)CONTAM及びCONTAM Report1962年にニールセン調査の検証を目的として、3大ネットワークが中心となって創設した監査機関。
CONTAM Report1988年から22ヶ月、100万ドルの経費を投じてピープルメータ調査のサンプリングからレポーティングまでの全行程について、その整合性を監査した全7600ページに及ぶ監査報告書のこと。

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